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若手薬剤師必見!オピオイドによる便秘の発現機序と対処法【事例付き】

「患者さんに、オピオイドで便秘症状が悪化したので、使うのをやめたいと言われたけれども、どう対応すればよいかわからない」そんな経験はありませんか?

日本におけるオピオイドによる便秘の発生率は、下剤を投与しない場合約55~65%と報告されています。[1][2]

患者さんのQOL向上のためには、便秘対策は疼痛のコントロールに匹敵するほど重要な要素です。本記事では、オピオイドによる便秘の発現機序と対策について、ポイントをわかりやすくまとめました。

緩和医療に約11年従事した薬剤師の筆者が、オピオイドによる便秘の訴えがあった場合の対応例も紹介します。

薬剤師ライター

杏 優花さん

医療現場でオピオイドによる便秘の対応で困った際には、ぜひ参考にしてみてくださいね。

目次

早期からの便秘対策が必要な理由

モルヒネによる便秘は、鎮痛に必要な用量の約1/50で起こると報告されています[3]

つまり、鎮痛用量に達していないオピオイド投与初期でも便秘は発現する可能性があります。

便秘と疼痛の二重苦によって、オピオイドの拒薬につながる場合もあるでしょう。鎮痛に必要な用量までオピオイドを増量するためにも、早期からの便秘対策が大切です。

薬剤師ライター

杏 優花さん

また、オピオイドによる便秘には耐性がほとんど生じないため、オピオイド投与期間中は、継続的な便秘対策と排便状況の観察が必要です。[4]

耐性:薬へ適応し、症状が出なくなること

便秘の発現機序と使用される薬剤

オピオイドによる便秘は、大腸の蠕動運動低下だけが問題ではありません。発現機序を理解し、メカニズムに基づいた便秘治療薬の選択について理解を深めることが重要です。

使用される薬剤を分類・作用ごとにわかりやすくまとめました。さらに、難治性の場合の選択肢となるオピオイドスイッチングについても説明しています。

オピオイドスイッチング:副作用の改善や鎮痛効果の増強などを目的に、投与中のオピオイドから他のオピオイドに変更すること[5]

オピオイドによる便秘の発現機序

オピオイドによる便秘は、おもに以下の機序により発現します。[6]

  • 小腸から大腸における蠕動運動を抑制し、内容物の通過時間延長、水分の吸収促進をもたらす
  • 肛門括約筋の緊張を高め、便の排出を困難にさせる
薬剤師ライター

杏 優花さん

肛門括約筋の緊張亢進からも便秘が生じるため、便を軟化させ排出させやすくするとよいでしょう

そのため、蠕動運動を促進する大腸刺激性下剤に加え、浸透圧性下剤が併用される場合もあります

オピオイドによる便秘に使用される薬剤

日本では、オピオイドによる便秘の治療薬として、一般的に浸透圧性下剤や大腸刺激性下剤が使用されます。難治性の場合は末梢性μオピオイド受容体拮抗薬の使用が推奨されます[7]

オピオイドによる便秘に使用される薬剤を、以下の表にまとめました。[4][5][8][9][10]

分類作用薬剤
末梢性μオピオイド受容体拮抗薬消化管に存在するμオピオイド受容体に結合し、オピオイドの末梢性作用に拮抗するナルデメジン(スインプロイク®錠)
浸透圧性下剤浸透圧による便軟化酸化マグネシウムなど
大腸刺激性下剤大腸の蠕動運動を亢進センノシド(プルゼニド®)、ピコスルファートナトリウム(ラキソベロン®)など
グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニスト腸管内への水分分泌促進による便軟化、腸管の蠕動運動促進リナクロチド(リンゼス®)
Clチャネルアクチベーター腸管内への水分分泌促進による便軟化、腸管の蠕動運動促進ルビプロストン(アミティーザ®)
胆汁酸トランスポーター阻害剤胆汁酸再吸収抑制による便軟化、腸管の蠕動運動促進エロビキシバット(グーフィス®)
オピオイドによる便秘に使用される薬剤例

便秘が難渋する際は、モルヒネやオキシコドンヒドロモルフォンからフェンタニルへのオピオイドスイッチが有効な選択となる場合があります。[8]

薬剤師ライター

杏 優花さん

フェンタニルはμ1受容体選択性が高いため、消化管運動を抑制するμ2受容体を介した便秘作用が起こりにくいとされています。[3]

【事例紹介】便秘が悪化した場合の対応例

がん患者さんから便秘の訴えがあった場合の対応について、架空症例をもとに検討してみましょう。

【事例】
60代女性、肺がん(併存疾患なし)の患者さんに、2週間前から「オキシコドン徐放錠5mg(1回1錠・1日2回・12時間毎)」「センノシド錠12mg(1回1錠・1日1回・眠前)」が開始されました。


レスキュー薬として処方された「オキシコドン散2.5mg(1回1包・疼痛時)」は一度も使用されていません。1週間前から「アミトリプチリン錠10mg(1回1錠・1日1回・眠前)」が追加されました。

疼痛コントロール状況を確認するため、薬剤師が訪問した際、「オキシコドン錠をのみはじめて、少し痛みは楽になったが、オキシコドン錠開始後より便秘気味で、最近さらにひどくなった。便秘がひどくなるのが嫌なので、痛いときもオキシコドン散をのまずに我慢している。もうオキシコドン錠ものみたくない。」と訴えがありました。

レスキュー薬:突出痛発現時に頓服として使用される即効性オピオイド

薬剤師が考慮すべき便秘の要因

まず、オピオイド以外の便秘の要因を鑑別する必要があります。がん患者さんの便秘は下記の原因で発生する点を踏まえ、適切な対策を考えましょう。[11]

  • がんによる影響:消化管閉塞、脊髄腫瘍、高Ca血症など
  • がんの二次的な影響:食事量の低下、脱水、ADL低下など
  • 薬剤性:抗コリン薬、抗うつ薬、制酸薬、抗がん剤、利尿剤、鉄剤など
  • 併存疾患:糖尿病、甲状腺機能低下症など

今回の事例では、オキシコドン錠による便秘症状発現に加え、便秘症状が悪化したタイミングにより、抗うつ薬であるアミトリプチリン錠も便秘の一因である可能性が考えられます。

薬剤師ライター

杏 優花さん

また、がん患者さんの便秘は心理社会的問題も要因の一つであり、ストレスや心理的な問題の軽減が便秘の予防・改善に有効であるとされています。[12]

本事例ではレスキュー薬内服を我慢していることで、適切なタイトレーションが行われていません。不十分な疼痛コントロールによる痛みのストレスが便秘を悪化させる一因となり、悪循環に陥っている可能性もあるでしょう。

タイトレーション:レスキュー薬の内服量に応じた定期内服オピオイドの増量

患者さんへの説明のポイント

筆者が考える、本事例への対応のポイントを説明します。

1.共感の姿勢を示す

まずは話をよく聞き共感することが大切です。レスキュー薬内服を我慢している理由や、オピオイドへの不信感など患者さんの本心を聞き出せるかもしれません。

2.便秘について説明する

便秘の治療薬はセンノシド錠以外にもあり、適切な治療薬選択により便秘症状の改善が期待できることを伝えましょう。排便状況を共有し、医療者が患者さんと一緒に便秘対策を考える姿勢を示しましょう。

3.便秘作用、鎮痛作用の発現用量について説明する

便秘は鎮痛に必要な用量より低い用量で発現します。現在の用量では鎮痛用量に達しておらず、オピオイドの増量が必要である旨を伝えましょう。鎮痛用量には個人差があり、痛みによるストレスが便秘を悪化させる可能性も説明します。まずはレスキュー薬の適切な使用を目指しましょう。

他の医療者と行う対応のポイント

筆者が考える、薬剤師以外の医療職と連携すべきポイントを説明します。

1.レスキュー内服を我慢している情報を共有する

医師は、レスキュー薬の内服量に応じたタイトレーションを検討しているかもしれません。レスキュー薬が適切に使用されていない情報を、他の医療者と共有しましょう

2.アミトリプチリン錠の中止を検討する

オピオイドの増量により痛みが緩和されると、うつ症状が和らぐ場合もあります。処方医にアミトリプチリン錠の処方意図を確認し、可能であれば中止を提案するとよいでしょう。

薬剤の処方内容は医師の判断が必要です。

3.便秘治療薬を検討する

便が硬くなっている場合は、浸透圧性下剤の併用が有効かもしれません。看護師に患者さんの便の状態を確認し、医師に相談しましょう。

4.便秘対策を医療者チームで考える

便秘の要因や対策について医療者チームで検討するとよいでしょう。消化管閉塞などの病態的要因についての確認も必要です。

薬剤師ライター

杏 優花さん

食事内容の変更や、おなかを温めるなどのセルフケア適度な運動を促すなど、薬物療法以外のさまざまなアプローチが考えられるでしょう。

適切な便秘対策でQOL向上をめざそう

がん患者さんの便秘は、さまざまな要因で発現します。患者さんの心に寄り添う傾聴の姿勢が、要因を鑑別する手がかりとなるかもしれません。

オピオイドによる便秘は、早期からの継続した対策が重要です。

薬剤師ライター

杏 優花さん

便秘の発現機序にもとづく適切な便秘対策で、患者さんのQOL向上に貢献していきましょう。

参考

[1]Akihiro Tokoro et.al、Incidence of opioid-induced constipation in Japanese patients with cancer pain: A prospective observational cohort study、Cancer Medicine、2019、8(10)、4883-4891 

[2] Ishihara Masashi et.al、A Multi-institutional Study Analyzing Effect of Prophylactic Medication for Prevention of Opioid-induced Gastrointestinal Dysfunction、The Clinical Journal oF Pain、2012、28(5)、373-381 

[3]鈴木勉 医療用麻薬の薬理学的特徴 Drug Delivery System 2005 20(5) 505-512

[4]非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン 改訂第2版 p48

[5]厚生労働省医薬局監視指導・麻薬対策課 医療用麻薬適正使用ガイダンス令和6年 p14.p25

[6]浜善久 がん緩和療法における薬物治療の基本 信州医学雑誌 2007 55(6) 317-326

[7]Hironori Mawatari et.al, Revision of Pharmacological Treatment Recommendations for Cancer Pain: Clinical Guidelines from the Japanese Society of Palliative Medicine、Journl of palliative medicine、2022、25(7)、1095-1114 

[8]東北大学大学院医学系研究科緩和医療学分野 緩和ケアマニュアル 消化器症状2021 1-6/16

[9]リンゼス錠0.25mg添付文書 2020年3月改訂(第2版)

[10]グーフィス錠5mg添付文書  2022年4月改訂(第2版)

[11]Oxford Textbook of Palliative Medicine fifth edition p676

[12]Basta, S & Anderson, D.L  Mechanisms and Management of Constipation in the Cancer Patient. Journal of Pharmaceutical Care in Pain & Symptom Control,1998 6(3), 21-40

この記事の執筆者

薬剤師ライター:杏 優花(きょお ゆたか)さん

薬科大学大学院修士課程修了後、病院薬剤師としてさまざまな診療科を経験。緩和ケアチーム発足時、専任薬剤師として活動したことをきっかけに、緩和医療の世界へ。約11年間緩和医療に従事し「心にも身体にも優しい医療」を実践。

現在は3歳の娘の育児に奮闘中の母。長年の臨床経験で培われた共感力をベースに、読者が今日(杏)も心豊か(優花)に過ごせるよう、心に寄り添う文章の執筆をこころがけています。

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