「最近だるくて熱も出てるから、コロナかと思って病院に行ったら、白血病と言われた」
「耳鳴りがするので近くの耳鼻科に行って検査をしたら、すぐに大きな病院の血液内科を紹介された」
このように、気軽に病院を受診したら突然がんと診断されるなんて、驚いてしまいますよね。まさに青天の霹靂(へきれき)です。
血液がんと診断されるとすぐに入院治療が必要な場合が多いため、不安やとまどいを感じることでしょう。
病気はちゃんと治るのか?仕事はどうなるのか?お金はどのくらいかかるのか?結婚や子育てはどうなるのか?など、さまざまな悩みや疑問が湧いてきます。
成田にこさん
そこで本記事では、20年に渡り多くの血液がん患者さんをサポートしてきた看護師が、はじめての入院治療を乗り越える5つのポイントをお伝えします。
入院前に知っておくこと
いきなり「明日から入院して治療をはじめましょう」と言われても、何から準備したら良いのか悩みますよね。
そのようなときは、入退院支援を担当する医療者が、入院にあたって心配なことをサポートしてくれます。まずは困っていることを伝えてみましょう。
成田にこさん
「急に入院になってどうしたらいいかわからない」「仕事の調整が明日にはつきません!」など、医師には言い出せなかったことも話してみてください。話が終わるころには、何から準備をしたら良いのかが整理されているでしょう。
また、携帯やパソコンの使用、Wi-Fi接続についてのルールは病院により異なります。病院のWebサイトに載っていることが多いですが、ご自身で調べる余裕がないかもしれません。日常生活に必要なものが持ち込めない場合もあるので、気になることは入院前に聞いておきましょう。
血液がんの治療を乗り越える5つのポイント
「入院したくないな……」「痛いの嫌だな、つらいんだろうな……」と、心の中では誰もが思いますよね。きっと不安を感じながらも「治療がうまく進みますように!」と気持ちを奮い立たせていることでしょう。
実際の入院生活は想像と異なることが多いかもしれません。
成田にこさん
これから安心して入院生活を送るために、必要な情報を確認していきましょう!
1:入院期間と費用について
はじめての入院だと、どれだけの入院期間や費用になるのか、見通しが立たずに不安になりますよね。血液がんにはさまざまな種類があり、入院期間や費用にも個人差があります。
血液がんの抗がん剤治療では、白血球や赤血球などが一時的に減少した後の回復具合で、治療効果や退院時期を判断するのが一般的です。また、血液がんの種類によっても入院期間は変化します。
成田にこさん
たとえば、急性白血病の初回治療では、正常の造血が回復するまで約1か月かかります。[1]筆者の経験上も、30日前後の入院をする方が多い印象です。
また、悪性リンパ腫の治療では基本的に2〜4週間の抗がん剤治療を数回くり返しますが、入院は初回のみで、2回目以降は外来で治療する方法も多くあります。[2]
成田にこさん
治療費用については、ご自身の収入に応じた医療費制度(限度額)で対応可能です。わかりにくいことがあれば、医師や看護師からメディカルソーシャルワーカー(MSW)を紹介してもらいましょう。
また、治療費用以外にも、ベッド代(無料〜数十万円)や食事代、レンタル衣類代など細かな出費が重なります。ご自身で加入している入院保険などで補填できますが、体調によりスムーズに手続きできないかもしれません。そのようなときも、MSWが力になってくれます。
2:医療チームについて
血液がんの治療には医師や看護師、薬剤師、理学療法士、輸血検査技師などの医療者が関わります。そして、あなたやご家族も加わった医療チームとして、共同で治療をすすめていくのです。
成田にこさん
医療チーム内でのあなたの役割は「思っていること、困ったことを声に出す」ことです。
入院中は何もかもがはじめての経験です。恥ずかしがらずに思ったことは何でも聞いてください。ご自身で調べることも必要ですが、治療中のわずらわしさを減らすためにも、医療チームで解決していきましょう。
そうは言っても「先生は忙しいから……」と思うかもしれません。そのような方は、何か聞きたいことができたらメモを準備しておくと便利ですよ。
また、看護師は入院生活ではとても身近な存在です。何かのついでに少し話しかけてみましょう。家の話や仕事の悩み、こんな話をしても仕方ないかなと思うことでもかまいません。
成田にこさん
治療を安心して受けるためにも、あなたの気持ちを医療チームと共有しましょう。いま自分は何をするべきなのかが見えてきて、きっとあなたの生活に役立ちます。
3:妊孕性(にんようせい)について
妊孕性(にんようせい)とは、妊娠するために必要な能力です。抗がん剤や放射線治療などの影響で、男女問わず妊孕性が低下したり失われたりする可能性があります。[3]
そのため、可能な限り治療開始前に妊孕性温存を検討します。妊孕性温存とは、将来自分のこどもを授かる可能性を残すために、卵子や精子、受精卵、卵巣組織を凍結保存することです。
治療によって妊孕性を失う可能性がある場合、治療の説明と同時に妊孕性について説明があります。あくまでも治療が優先なため、病状によっては妊孕性温存ができない可能性もあります。
成田にこさん
妊孕性温存にとらわれすぎて治療が遅くなってしまうのは本末転倒です。しかし、今後の人生設計において結婚や妊娠、出産について少しでも考えているのなら、時間が許す限り医療者や家族と相談してみませんか?
また、令和4年度より、妊孕性温存についての費用助成が開始されました。対象者は43歳未満で所得制限はありません。[4]
妊孕性温存の窓口となるのは、婦人科や泌尿器科、リプロダクションセンター*などです。入院した病院での対応が難しい場合は、近隣にある対応可能な医療機関に受診する場合もあります。
4:入院生活の過ごし方
入院生活を乗り越えるためのノウハウは、多くの患者さんと接してきた看護師や薬剤師に聞いてみると良いでしょう。
血液がんの入院治療は、はじめての経験ばかりで、とまどう場面も多いかもしれません。とくに、抗がん剤は吐き気や脱毛、口内炎、下痢、便秘などの副作用が有名なため、治療前から不安になってしまいますよね。
抗がん剤の種類によって、どのくらいの時期からどのような副作用が出やすいのかは異なります。また、副作用が出てしまっても、軽減するための薬もいろいろあります。
治療がどのようなペースで進んでいくかがわからず、不安を感じている方は他の患者さんの様子がわかると安心できるでしょう。
成田にこさん
このような、副作用に対する工夫や治療のペースは、ぜひ看護師や薬剤師に聞いてみてください。提案してもらった方法をいろいろ試してみると、あなたに合う方法がわかってきます。一つひとつ乗り越えていきましょう。
5:自分にしかできないことをコツコツと
入院中の体調は、ずっと優れないというよりも、治療の経過によって変化します。しかし、体調はご自身でコントロールできるものではありません。
抗がん剤を使うと、血液を作りだす骨髄(こつずい)が障害を受けてしまい、以下の流れで感染しやすくなるとわかっています。
”白血球のうち、とくに感染を防ぐ働きを持つ好中球が減ることによって、細菌や真菌(カビ)に対する抵抗力が弱くなり、口の中や肺、皮膚、尿路、腸管などで感染症を起こしやすくなります。”
引用:国立がん研究センターがん情報サービス[5]
そのため、基本の感染予防であるうがいや手洗いをこまめにコツコツと行いましょう。入院中は「体がだるくて横になっていたいな……動きたくないな……」と感じるときもあるでしょう。どうしても体が動かせないときには看護師が手伝ってくれるので、ぜひ声をかけてください。
ただ、抗がん剤の治療中は、頑張って予防しても感染症を引き起こす場合もあります。気になる不調があらわれたら、すぐに看護師に伝えましょう。
成田にこさん
「自分にしかできないことをコツコツやっていこう」という心がまえは、治療を継続するうえではとても大切です。
「でも辛い……」困ったら声に出そう!
血液がんの治療は先の見通しを立てづらく、不安や心配のタネとなりやすいです。
「言われたとおりにうがいをしてたけど、熱が出てしまった……。何か悪い方向に行っているんじゃないか……」と、ついつい、ネガティブな想像をしてしまうかもしれません。
そのようなときは辛い思いを声に出してみてください。誰かに話すと自分の気持ちが整理できる場合もあります。また、新たな解決策を医療チームで考えることもできるでしょう。
成田にこさん
血液がんは治療期間が長く、医療者と過ごす時間も長くなります。あなたと医療者がお互いにわかり合えることで、安心して治療を受けられるでしょう。
看護師ライター: 成田にこさん
看護師として主に血液がん看護・移植看護を専門とし、20年以上のキャリア。取材記事の執筆経験から医療ライターに興味を持つ。「がんと共に生きる」「移植臓器(組織)とともに生きる」読者の支えになれるように、豊富な経験を元に実際に相談して解決したかのような「ストンと腑に落ちて行動できる」わかりやすい表現を意識した執筆を心がけています。
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