「自分の親が、病院へ通うのが大変そうになってきた」
「自宅でも医療が受けられると聞いたけど、詳しいことはわからない」
このような想いを抱える患者さんやご家族の方は少なくありません。病院ではなく自宅で医療を受けたいという想いに応えるのが在宅医療です。
在宅医療では、医師の診察、看護師による医療的ケア、リハビリや薬の管理といった医療サービスを自宅で受けられます。とはいえ、サービスのすべてを医療スタッフのみで対応するには限界があり、家族のサポートが欠かせないのも事実です。
一方で在宅医療をうまく活用し、自分らしい療養生活を送っている患者さんやご家族も多くいます。

菅 基さん
本記事では、看護師として訪問診療と訪問看護で働いてきた筆者の経験を基に、在宅医療についてわかりやすく簡単に解説します。
在宅医療とは?をわかりやすく説明


在宅医療は仕組みや制度が複雑なため、わかりづらいと言われています。



菅 基さん
実際に在宅医療を受けて、ようやく内容がわかったという利用者がほとんどです。
まずは在宅医療の概要やおもな利用者、費用や制度など基本的な内容をおさえておきましょう。
在宅医療の概要
在宅医療とは「自宅にいながら医療を受けられるサービス」です。
日本は少子高齢化が進んでいます。厚生労働省によると、2020年の時点で65歳以上の人口は29%の割合でした。2040年には35%と予想されています。[1]



菅 基さん
高齢化に伴う医療のひっ迫を改善するため、普段は自宅などで医療を受け、必要時のみ大きい病院を利用する在宅医療を国が推進しています。[2]
在宅医療のおもな利用者
在宅医療で勤務した筆者の経験上、利用者が在宅医療を受けるきっかけになりやすい理由は「外出が難しく通院できないため」です。
具体的には「足や腰の痛みがあり、長距離を歩けない」「体力がなくなり、すぐに息切れする」「認知症がひどく、一人で外に出られない」などがありました。



菅 基さん
他にも「自宅で最期を迎えたい」など、さまざまな理由で在宅医療を利用する方がいます。
在宅医療の費用と制度
在宅医療では、利用する方の状況に応じて医療保険と介護保険を使い分けます。在宅医療にかかる費用は、医療保険と介護保険の負担割合と、利用するサービスの内容で大きく変わります。[3]
利用するサービスが多いと費用の負担は増えますが、医療保険は「高額療養費制度」を使えば費用負担を軽くできるかもしれません。
健康保険を利用した医療費には、年齢と年収によって月ごとに払う医療費の上限額が決まっています。一つの医療機関で上限額を超えた場合、超過分は請求されません。



菅 基さん
複数の医療機関での合計費用が上限額を超えた場合は、後日保険組合から支払った超過分が返金されます。
一時的に支払うお金があっても、後から戻ってくることを知っていれば安心につながるでしょう。[4]
在宅医療では、他にも費用を軽くするためにさまざまな制度を利用できます。詳しくは、お持ちの医療保険証と介護保険証を発行している、保険組合や自治体にお問い合わせください。
在宅医療でできること


在宅医療は、利用者の状況や希望に応じて、さまざまなサービスを組み合わせて利用します。代表的なサービスが訪問診療や訪問看護です。他にも訪問リハビリや訪問薬剤管理などのサービスがあります。内容を簡単に見ていきましょう。[5]
医師の診察
医師が定期的に自宅を訪問し、診察するサービスが訪問診療です。訪問診療では診察だけでなく、薬の処方、注射や点滴などの医療処置もおこないます。病院への入院や受診の手配、今後の方針についての相談も可能です。
看護師による医療的ケア
看護師が定期的に自宅に訪問し、医療的ケアをおこなうサービスが訪問看護です。訪問看護では体調をチェックし、家族や介護職では対応が難しい方の体拭きや入浴を支援します。



菅 基さん
医師の指示に基づいた注射や点滴、精神面のケアなども提供します。
自宅でのリハビリや薬の管理
訪問リハビリは、リハビリの専門職である理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が自宅に訪問してリハビリをおこなうサービスです。利用者の体の状況や自宅の環境に応じて、必要なリハビリを実施します。



菅 基さん
また、医師が処方した薬を薬剤師が自宅に届け、服薬を支援する訪問薬剤管理と呼ばれるサービスも利用できます。
在宅医療でできないこと


在宅医療では、病院のように緊急時にすぐ対応できるわけではありません。実施できる検査の種類には限りがあります。今後の方針を医療者側のみで決めることもできません。
できないこともしっかり認識したうえで、利用を検討しましょう。
1分1秒を争う緊急時の対応
在宅医療では、事業者の訪問は平日の日中に限らず、夜間や土日祝でも緊急時に訪問するサービスがあります。ただし、事業者が対応する緊急時の訪問は、救急車のようにすぐにかけつけるサービスではありません。



菅 基さん
訪問には必ず時間がかかることを知っておきましょう。
病院でおこなう専門的検査
訪問診療では、採血や細菌検査、心電図やエコーなどの基本的な検査が自宅でできます。その他の専門的な検査は、訪問診療クリニックによっては自宅でできる検査もあります。



菅 基さん
ですが、病院での検査が必要な場合もあります。専門的な検査については、主治医と相談して決めましょう。
今後の方針を医療者側だけで決める
在宅医療では、今後の方針を話し合う際、ご家族で意見がまとまらないことは珍しくありません。最期をどこで過ごすか、といった大きな決断が必要な場面では、方針が決まるまでに時間がかかります。
方針を決めるうえで意思が優先されるのは、まずは本人で次にご家族です。医療者側では一方的に決められません。



菅 基さん
本人やご家族が納得できる結論を出せるまで医療者が寄り添うので、一緒に考えてみましょう。
在宅医療をはじめるための準備と相談


在宅医療を受けようと考えた時、まず何をすればよいのでしょうか。



菅 基さん
筆者のおすすめは「人生会議を開いて、本人の考えを家族で確認する機会を設ける」です。
本人が在宅医療を受けると決めた後に、地域包括支援センターなどの自治体や専門家へ相談を検討しましょう。
人生会議で本人の考えを確認する
人生会議とは、価値観や受けたい医療ケアを本人があらかじめ考えて、周りの人たちに共有する話し合いです。
家族が離れて暮らしている、家族の仲が良くないなど、さまざまな理由で家族での話し合いが難しい方もいるでしょう。
人生会議は在宅医療をはじめる前も、はじめてからも何回も必要になります。
話し合いが難しいと考える方こそ、在宅医療を話し合いのきっかけにしましょう。



菅 基さん
本人が今後どのような生活を望むのか、家族にどう関わって欲しいか、人生会議でじっくりと話し合うことをおすすめします。[6]
自治体や専門家へ相談する
相談先としておすすめの場所は、お住まいの自治体にある「地域包括支援センター」です。地域の在宅医療や介護に精通した専門家が、中立的な立場から一緒に解決策を考えます。自治体のWebサイトで確認するか問い合わせをするとよいでしょう。



菅 基さん
介護保険のサービスを利用している場合は、担当のケアマネージャーが窓口になります。
入院中であれば、病院の相談窓口で専門家に相談してみましょう。
悩んだら気軽に相談を


在宅医療は情報が少ないため、利用を検討している方にとっては暗闇の中で手探りしているように感じるかもしれません。だからこそ、在宅医療についての悩みが少しでもあれば、地域包括支援センターなどの窓口で相談をおすすめします。
経験豊富な専門家に話を聞いてもらうだけでも、解決の糸口がきっと見つかるでしょう。



菅 基さん
在宅医療について詳細をさらに知りたい方も、ぜひ窓口へ足を運んでみてください。


看護師ライター:菅 基 さん
法政大学社会学部卒。大手交通系会社に勤務後、自らのキャリアを見直し看護師を志す。看護師免許取得後、東京都内の総合病院、訪問看護、訪問診療にて勤務。その後自身の経験を元に「看護師資格を活かした新しいキャリアを形成する」をビジョンに、医療ライターとして幅広い分野で活動中。
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