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薬不足はなぜ起きるの?患者として気を付けたい3ポイント

「風邪を引いて病院に行ったのに薬がもらえない」

「いつも薬局でもらっている薬が入荷せず、違うメーカーのものになった」

この記事を読んでいる方の中には、こういった経験をされた方もいるのではないでしょうか。

普段は何も気にせずもらえている薬も、需要と供給のバランスが崩れると、ニュースで取り上げられてしまうほどの薬不足に陥ります

大規模な薬不足はなぜ起きてしまうのでしょうか。患者さん自身で気をつけられることはあるのでしょうか。

医療ライター

横関ピーすけさん

医薬品メーカーでMR(医薬品情報担当者)をしている筆者が、日々医療現場で医薬品の供給問題に直面している経験をもとに解説します。

目次

薬が不足するきっかけとは

薬不足のきっかけは1つではなく、いくつかの要因が重なって発生します。これからご紹介する2つが主な要因ですが、その他にも要因となる事象はあります。

たとえば製薬メーカーの製造工場が地震や火事などの被害に遭うなど、たまたま発生した事象で大きな影響を受けることも。

薬不足が起こるきっかけについて確認していきましょう。

後発品メーカーの経営状態

日本では後発(ジェネリック)医薬品の使用が全体的に進められていますが、メーカーの経営状態が需要に追いつけなくなると、薬不足が発生します

また、需要に追いつこうと製造を無理に進める結果、品質管理がきちんと行われなかったり不正を認めたりしてしまうメーカーもあるでしょう。

実際に2020年には、ある後発(ジェネリック)医薬品メーカーが製造する水虫の治療薬に睡眠導入剤が誤って混入する事故がありました。この事故では約250人の患者さんが被害に遭い、事故を起こしたメーカーは厚生労働省から行政処分に。[1]

この事故をきっかけに複数社の不正も発覚し、全国的に薬不足の状態が続くこととなりました。

医療ライター

横関ピーすけさん

このように余裕のない経営状態のメーカーが相次ぐことで、薬不足が起きる場合もあるのです。

原薬(薬の原材料)の輸入依存

原薬(薬の原材料)を海外からの輸入に頼っていると、ささいなことで薬不足に陥ってしまいます。

後発(ジェネリック)医薬品の原薬は、約7割が海外からの輸入です。そのうち、中国・インド・韓国・ヨーロッパで約8割を占め、輸入に頼る国にかたよりがある現状です。[2] そのため、これらの国で戦争が起きると原薬の輸送が困難になり、調達が不可能になってしまうでしょう。

医療ライター

横関ピーすけさん

また、環境問題への配慮からその国の規制が厳しくなり、工場が閉鎖されてしまうと、原薬の製造自体が困難になります。

輸入はただでさえコストが高いため、メーカーの経営状態によっては、薬の供給がスムーズに行かなくなってしまうのです。

薬不足が長期化する理由

薬不足は、患者さんにも医療従事者にもマイナスな影響を与えます。

早期にメーカーが対策をしたり、国が支援体制を整えたりすれば、薬不足は長期化せずに済む場合もあります。ですが、さらに悪い条件が重なってしまうと、薬不足が長期化してしまうことも。

薬不足が長期化する理由はさまざまですが、影響が大きい2つの要因について解説します。

感染症の流行による需要の増加

新型コロナウイルス感染症やインフルエンザなどの感染症が流行すると、医療機関を受診する患者さんの人数が増加します。患者さんが増えれば、咳止めや痰切り、抗生物質などの感染症にかかった際に処方される薬の需要もどんどん増加してしまいますよね。

たとえば、2021年に起きた大規模な薬不足では、複数の後発(ジェネリック)医薬品メーカーで問題が発生した時期と、新型コロナウイルス感染症の流行開始時期が重なってしまいました

医療ライター

横関ピーすけさん

需要と供給のバランスが崩れ続け、薬不足の状態が長期化する原因となりました。

医薬品価格制度の影響

医師の処方せんが必要な薬(医療用医薬品)には、「薬価」と呼ばれる国が定めた公定価格が設定されています。薬価は2年に1度改定され、医療費削減のため、段階的に引き下げが行われます。[3]

ちなみに、これ以上は薬価を下げられない「最低薬価」という下限値が設定されていますが、2025年1月時点での錠剤の最低薬価は1錠あたり5.9円です。[4] 

さらに、医療費削減をさらに進めるために、2021年から「中間年改定」として1年ごとに薬価を引き下げる制度ができました。[5]

患者さんにとっては、薬価が下がることはお薬代の負担軽減につながり、恩恵を受けられます。「日本の薬は、うまい棒よりも安い」という話を聞いたことがある方もいるでしょう。

医療ライター

横関ピーすけさん

ですが、うまい棒よりも安い価格で薬を製造している製薬メーカーからすると、薬価の引き下げは致命的です。

製薬メーカーにとっては、薬価が高く維持されることで、利益確保につながります。利益が毎年削られると、薬を継続して製造するために必要な設備にかける資金が確保できません。

不足している薬を増産したくても、経営状態が厳しく、増産体制を整えられないメーカーも多くあります。

患者として気を付けたい3ポイント

ここまで、薬不足が起きるきっかけと、事態が長期化する理由について解説してきました。

これまで当たり前のようにもらえていたいつもの薬が、ある日突然もらえなくなる事態に実際に遭遇してしまったらどうしたらよいでしょう。薬不足に対して、患者さん自身ができる対策は何かあるでしょうか。

3つのポイントについて紹介します。

感染症の予防をする

薬不足が発生しているときは、感染症シーズンに病院に行って処方せんをもらっても、薬局に行くと薬がない状況に直面する可能性があります。そのため、そもそも感染症にかからないように予防することが重要です

新型コロナウイルス感染症が2023年5月から感染症法上の5類感染症に分類されてから、以前に比べてマスクを着用する人が減りました。[6]

医療ライター

横関ピーすけさん

マスクをするかどうかは個人の判断にゆだねられますが、感染症がとくに流行している時期や、人ごみに出掛ける際などは、マスクの着用をおすすめします。

余った薬は薬局に相談する

以前処方されて飲み残して余った薬がある場合は、薬局に相談してみましょう。

たとえば、感染症にかかって病院で咳止め薬が処方されたが、薬局で「薬が足りないので出せない」と言われた場合。以前処方された咳止め薬が自宅に余っていれば、薬局に何錠あるか伝えてみましょう

残薬調整といって、薬局の薬剤師が医師に事情を話し、処方する薬の量を減らせる仕組みがあります。薬の量が減ったら、薬局に今ある薬でまかなえる可能性が高まるでしょう。

医療ライター

横関ピーすけさん

自己判断で薬を捨てたり勝手に飲んだりせずに薬局に相談すれば、正しく・無駄なく薬を服用可能です。

かかりつけの薬局を利用する

定期的に薬をもらっている場合は、毎回同じ薬局を利用することで、薬不足で薬がもらえないケースを避けられる可能性があります

薬局では基本的に、毎回利用してくれる患者さんの薬は常に在庫しているためです。薬の種類や感染症の流行時期にもよりますが「かかりつけ薬局」を決めておくと、薬不足で困る機会は少なくなるでしょう。

医療ライター

横関ピーすけさん

先ほど紹介した「余った薬の相談」も、かかりつけ薬局であれば、患者さんが飲んでいる薬を把握しているため、スムーズに相談できます。

薬不足の時代でも慌てないためには

患者さん自身が薬不足について理解し、薬がもらえずに困るケースをどうすれば少なくできるのかを解説してきました。

医療ライター

横関ピーすけさん

今まで当たり前のようにもらえていた薬が、ある日突然手に入らなくなる、なんてことも不思議ではありません。

ご自身や家族の方が困らないためにも、家に余っている薬やかかりつけ薬局について、見直す機会につなげていただければ幸いです。

この記事の執筆者

医療ライター:横関ピーすけ さん

上智大学経済学部経営学科を卒業後、後発医薬品メーカーで営業職として10年以上勤務。家では8匹の保護猫とともに暮らし、犬猫の保護活動もしています。営業職ならではの視点を活かし、読み手の気持ちに寄り添った記事の執筆を心掛けます。

note: https://note.com/muku_paman
Instagram:https://www.instagram.com/muku_paman/

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