終末期ケアに従事していると、「このケアで良かったのだろうか」「家族への声かけは適切だったか」と悩んだ経験はありませんか?
終末期ケアや看取りに関わる看護師は、やりがいを感じる一方で、迷いやストレスを抱えがちです。感情移入や喪失感から、疲れや燃え尽き感を覚える場合も少なくありません。患者や家族を支えるためには、まずは自分を大切にすることが重要です。
この記事では、終末期ケアに携わる現役主任看護師が、看取りに関わるストレスや心の負担について整理しています。
看護師ライター長野 千春さん
また、自分を守りつつ前向きにケアに関わるための具体的な対処法を解説します。
完璧を目指す必要はありません。関わり方を工夫しながら患者や家族、そして自分自身と向き合っていきましょう。
終末期の看護ケア


終末期は、人生の最終段階を指し、その人らしく過ごせるように考えケアしていく時期です。[1]医療療養型病棟や緩和ケア病棟で働いている看護師は、終末期ケアに携わる機会が多いでしょう。一方で急性期病棟や一般病棟で働いていると、あまり馴染みがないと感じる方もいますよね。



長野 千春さん
ここでは終末期ケアとは何か基本的な内容を確認するとともに、看護師に求められる役割について解説します。
終末期ケアとは
終末期ケアは、痛みなどを和らげるとともに、精神面・社会面も含めてその人らしい生き方を支える包括的な医療・ケアです。[1]最期まで本人の生き方を尊重するケアが重視され、2015年から「人生の最終段階における医療」と呼ばれています。[1]
こうした全人的なケアを実現するには、多職種間での連携が欠かせません。



長野 千春さん
「最期までその人らしく過ごせるように」という目標実現に向けて、チーム一丸となった支援が重要です。
求められる看護師の役割
終末期には身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな要素が複雑に絡み合った苦痛が生じます。[2]看護師は患者の苦痛を理解し、緩和する役割が求められます。また、家族へのケアも欠かせません。患者が意思を伝えられなくなると、家族が代わりに意思決定しなければならず、心理的負担が大きくなります。
アドバンス・ケア・プランニング*で事前に患者の意思を確認しておくと、思いに沿ったケアが実現しやすくなるでしょう。[3]看護師は、患者の意思を汲み取り、チーム医療に繋げる重要な役割を担っています。
終末期ケアで看護師が抱えるストレス


終末期は、「寄り添う」という看護の原点を感じられ、他の分野では得がたいやりがいがあります。一方で、看護師が抱える精神的な負担は非常に大きなものです。



長野 千春さん
とくに、治療方針に関する倫理的ジレンマや患者の死から生じる無力感は看護師の心に葛藤を生みます。
ここでは、終末期ケアに携わる看護師が抱えるストレスについて詳しく解説します。
正解のないケアへの不安
苦痛を完全に取り除けない無力感から「このケアで良かったのか」と自問自答する方も多いはずです。業務に追われ、じっくりと患者に寄り添う時間が持てないと、看護師としての自信が揺らぐこともあります。



長野 千春さん
他の看護師との意見の不一致や、多職種との連携の難しさも最善のケアができているのかという不安につながります。
看取りに向き合うつらさ
看取りの場面では、家族の死や病気など、自身の体験と重ねて感情移入し、深い悲しみや喪失感に襲われることも少なくありません。
また、日々患者の死に向き合い続けることで精神的に疲弊し、感情がすり減っていきます。[4]



長野 千春さん
こうした心身の消耗状態が続くと、燃え尽き症候群につながりかねません。[5]
家族との関わりで感じる戸惑い
家族の希望と患者の望みが食い違うとき、看護師は調整役として板挟みになりがちです。とくに延命治療の継続や、中止といった重い決断の場面に立ち会うとき、看護師の心は大きな負担を抱えます。
怒りや不満への対応
患者を思う家族のやり場のない怒り、悲しみに寄り添うことも看護師の仕事です。その怒りや悲しみは、看護師に向けられたものではありません。



長野 千春さん
しかし、直接言葉や態度として受け取ると、自分自身が否定されたように感じる場合もあります。
ストレスを感じたときの対処法


看取りに戸惑いやストレスは避けられないものです。自分に合った対処法をみつけて心と体の安定を保ちましょう。
自分に合う対処法を見つけるためには、いろいろな方法を試してみることをおすすめします。「気持ちが楽になる」「楽しい」と感じる瞬間を大切にすると、あなただけのストレス対処法がみつかるはずです。



長野 千春さん
ここでは、取り入れやすい対処法をご紹介します。
自分を労わる時間を持つ
自分を労わる時間を持つことは、心と体の健康を守るために欠かせません。[6]ただ休むだけではなく、心身を整え明日への活力を養う時間も大切です。[6]
具体的には以下の方法が挙げられます。
- ゆっくり入浴し、ストレッチで体の緊張をほぐす
- 深呼吸で呼吸を整えリラックスする
- バランスのとれた食事と十分な睡眠をとり、適度に運動する
- 辛かったことや嫌だったことを書き出し感情を整理する
- 信頼できる同僚や友人と話して共感してもらう
- 好きな音楽を聴く、スイーツを食べる、マッサージに行くなど、ご褒美で自分を甘やかす
- 趣味や好きなことに没頭する
- 「今日もよくやった」「できることは十分やった」と自分に優しい言葉をかける



長野 千春さん
自分を大切にする時間の積み重ねが、心にゆとりと安定をもたらしてくれます。
医療従事者間で気持ちを共有する
医療従事者間で気持ちを共有する場として、カンファレンスが有効です。
患者の死を振り返る「デスカンファレンス」の役割について、東京都の看取り支援の手引きでは次のように説明されています。
「デスカンファレンスとは看取り介護を振返り、ケアの妥当性を検証するとともに、看取りに携わったスタッフ自身の心のケアを行う機会として開催されるものです。」
出典:東京都福祉局 暮らしの場における看取り支援の手引き~施設向け研修地域展開用テキスト~[7]
看取りの際に感じた後悔や無力感を仲間と共有することで気持ちの整理が可能です。このほか、延命治療の継続や中止などを多職種で話し合う「倫理的カンファレンス」も行われます。患者や家族とのジレンマを共有し、感情面も含めて支え合うことができます。



長野 千春さん
カンファレンスでは「良かったことをほめ合う」「発言しやすい雰囲気づくり」「お互いを否定しない姿勢」が欠かせません。
医療従事者同士での気持ちの共有が、ストレスを軽減し、前向きにケアへ向き合う力となるでしょう。
同僚・専門家に相談する
心を開いて相談できる同僚がいるなら、気持ちを打ち明けてみると良いでしょう。話すだけでも気持ちは軽くなり、同じような経験がある場合には「自分だけじゃない」と安心につながります。
心理士や緩和ケアチームは日々のケアで直面する葛藤や悲しみを理解し、共感してくれる存在です。



長野 千春さん
具体的なアドバイスやストレス対処法を教われば、状況を冷静に捉え直して感情を整理できるでしょう。
一人で抱え込まず、チームで支え合っていることを忘れないでください。
終末期ケアの学びを深める
終末期ケアの学びを深めることは、患者や家族への理解と質の高いケアに直結します。ケアの質が高まれば、達成感が得られ、精神的な負担の軽減にもつながります。研修や学会への参加、終末期ケア専門士や緩和ケア認定看護師などの資格取得は、学びを深めるうえで非常に有効です。



長野 千春さん
興味のあるものに参加してスキルアップを目指しましょう。
自分を守りながら看取りを支えよう


終末期ケアや看取りの現場では、看護師が感じるストレスや心の負担は避けられません。自分を労い、感情と向き合う時間を持つことで、前向きに寄り添う力を保ちやすくなります。



長野 千春さん
終末期ケアでのあなたの悩みや迷いは、看護師として患者や家族と真摯に向き合った証です。
ストレスを感じたときは、心が軽くなる対処法を実施してみましょう。どうしても辛いときは、休職や部署異動、転職も大切な選択肢の一つです。


看護師ライター:長野 千春さん
看護師として、急性期から療養まで幅広い現場で看護を経験してきました。医療や看護の情報を「分かりやすく、もっと身近に」お伝えすることを大切にしています。私の記事が誰かの不安を和らげ、安心につながれば嬉しいです。趣味は旅行と世界遺産巡りで、新しい景色や人との出会いが、毎日の原動力になっています。









コメント