「どうしよう、健康診断で貧血を指摘された」
「貧血の精密検査ってどの病院に行ったらいいの」
仕事・学業・家事・育児などに何かと忙しい女性の皆さん、今年の健康診断は受けられましたか?健康診断は、普段頑張っている体からのメッセージを聴いてあげられる素敵な機会です。
貧血は、とくに10代後半~40代の女性が健康診断で指摘されることの多い項目の一つです。ただ、気になる症状も無く、病院に行く時間も取れない場合だと、ついつい検査を後回しにしていませんか。
ですが、その貧血、改善したらもっと元気になるかもしれません。

村崎 まみこさん
今回は、人間ドックに勤務する医師である筆者が、貧血との上手な付き合い方をお伝えします。
貧血って何?


そもそも、貧血とはどういう状態なのでしょうか。
ここでは貧血について基本的な知識を解説していきます。
貧血は体の異常を知らせる重要なサインです。精密検査で治療が必要な病気が見つかることがあるので、見過ごしてはいけません。とくに、女性が健康診断で貧血を指摘されると、鉄欠乏性貧血が見つかることがとても多いのです。
貧血は「体が酸欠状態」
世界保健機関(WHO)では、貧血は「赤血球の数または、ヘモグロビン(血色素)の濃度が正常より低い状態」と定義されています。[1]
ヘモグロビンは、赤血球に含まれている赤色の色素タンパク質です。体中に酸素を運ぶ働きがあります。ヘモグロビンが減ってしまうと、体中に充分な酸素を届けられなくなります。
「貧血は、体が酸欠状態」ということです。



村崎 まみこさん
貧血の原因はいろいろですが、詳しく調べると思わぬ病気が見つかることもあります。[2]
貧血が起きるしくみ | おもな原因 |
出血 | けが、消化管出血、過多月経* |
赤血球の材料が足りない | 栄養不足、吸収障害、腎臓や感染症の病気 |
赤血球が壊れる | 溶血性貧血、心臓の手術後、遺伝の病気 |
赤血球が上手に作られない | 血液のがん |
女性に一番多い「鉄欠乏性貧血」
鉄分はヘモグロビンの大事な材料です。体内の鉄分が少なく、ヘモグロビンが充分に作られていない状態を「鉄欠乏性貧血」と呼びます。
世界中で、月経のある15歳~49歳の女性の30%が貧血だと推定されています。[1]また日本でも、20代~40代の女性の約20%が鉄欠乏性貧血であり、約65%が慢性的な鉄分不足状態だとわかりました。[3]
自分でできる貧血の確認方法


「そもそも、私は貧血なのだろうか」
「健康診断で貧血と指摘されたけど、自覚症状がないから大丈夫だと思う」
「貧血はどんな症状がでてくるのかな」
貧血かどうか、自分でチェックする方法がいくつかあります。最近受けた健康診断の結果と、自分の体調を振り返ってみましょう。



村崎 まみこさん
病院を受診する目安も知っておくと安心です。
健康診断の結果をチェックしよう
まずは血液検査の「ヘモグロビン」をチェックしましょう。血色素やHbと表示されていることもあります。
WHOの基準では、15歳から65歳の成人女性はヘモグロビンが12.0g/dL未満だと貧血です。この数値が低いほど、重症ということになります。[4]
貧血 | 軽症 | 中等症 | 重症 | |
成人女性 | 12.0g/dL未満 | 11.0~11.9g/dL | 8.0~10.9g/dL | 7.9g/dL以下 |
成人男性 | 13.0g/dL未満 | 11.0~12.9g/dL |
次に、他の検査項目を見てみましょう。
- 血液検査の肝臓・腎臓の数値
- 便潜血
- 胃のバリウム検査



村崎 まみこさん
貧血と関連しているかもしれません。異常があれば病院で相談しましょう。
気になる症状がないか振り返ろう
貧血=立ちくらみのイメージがありますが、実際には他にもいろいろな症状が出てきます。
貧血の症状チェック
疲れやすい。だるい。 |
集中力が落ちている。イライラする。 |
体を動かすと心臓がバクバクする、息が切れる。 |
立ちくらみやめまいがする。 |
眠りの質が悪い。(日中の眠気が強い。朝になかなか起きられない) |
爪が欠けやすい。二枚爪になりやすい。爪が薄い。爪が反り返る。 |
季節を問わず、氷や冷たいものが食べたくなる。 |
肌がかさつく。口内炎ができやすい。抜け毛が増えた。 |
ヘモグロビンが基準値以下の場合、もしくはヘモグロビンが正常値なのに上記のような症状が気になる場合は、病院に行く目安と考えましょう。



村崎 まみこさん
症状が強い人だけでなく、症状は軽いけど1か月以上続いている人も早めに相談してみましょう。
貧血の治療は何科がおすすめ?


いざ受診しようと思っても、実際にどの病院に行くべきなのか迷ってしまいませんか。
また、何を検査されるのか不安に感じている人もいるかと思います。
ここでは病院を受診したときに、どのような検査や治療が行われるのか解説していきます。



村崎 まみこさん
なかでも、受診することの多い3つの診療科について説明しているので、参考にしてみてください。
まずは内科で血液検査をしよう
貧血の精密検査は、血液検査です。まず近くの内科で貧血の種類や重症度、原因などを調べてもらいましょう。[5][6]
鉄欠乏性貧血の場合、ヘモグロビンと一緒に、血液内の「血清鉄」と肝臓などに蓄えられている「貯蔵鉄(フェリチン)」も減っていることが特徴です。
鉄欠乏性貧血の治療の基本は「鉄分の補充」です。飲み薬(錠剤かシロップ)や注射で治療します。ここで一番大事なのが「血清鉄と貯蔵鉄の両方をしっかり補充する」こと。定期的に血液検査して、どのくらい改善したかをチェックしてもらうと安心です。



村崎 まみこさん
過去に飲み薬が合わなかった人も、新しい注射の薬で治療できるかもしれません。ぜひ病院で相談してみましょう。
念のために婦人科も受診しよう
生理がある女性の鉄欠乏性貧血には、婦人科の病気が隠れていることが多いとされています。
生理の時に血液の塊がでる、昼でも夜用ナプキンを頻繁に交換しなくてはいけない、8日以上出血が続くなど、過多月経(かたげっけい)の症状はありませんか?過多月経の原因を調べると、子宮筋腫や子宮内膜症などが見つかることがあります。[7]



村崎 まみこさん
婦人科の病気を治療して、経血量が適切にコントロールされると貧血が改善することがあります。[7]
消化器内科・胃腸科を受診した方がいい場合
便に血が混じる(便潜血陽性)もしくは胃バリウム検査で異常があった場合は、消化器内科を受診した方がいいでしょう。精密検査は、一般的に胃カメラや大腸カメラを使って、食道・胃・腸・肛門まで続く消化管のどこかに出血がないかを調べます。
出血で見つかる消化器の病気には、胃潰瘍や胃腸炎などの炎症、ポリープや「がん」などの腫瘍、痔(ぢ)などがあります。



村崎 まみこさん
治療としては鉄剤補充よりも、出血を止める治療を優先します。
日常生活でできる貧血への対処法


病院に行って、検査や治療を受けることはもちろん重要です。多くの場合、病院で治療したほうが安全、かつ早く改善します。
ただ、日常生活を工夫して貧血を予防したり、軽い貧血を感じたら早めにセルフケアしたりと、普段からできる対処法を知っておくとより安心です。



村崎 まみこさん
女性は鉄欠乏性貧血になりやすいので、日頃から鉄分をしっかり摂取して貧血になりにくい体を目指しましょう。
食事で必要な栄養を摂取する
偏食や少食の人は、鉄分も大事な栄養も不足しがちです。貧血が軽度の場合は、食事を改善すると、ゆるやかな貧血の回復が期待できます。[8]
1.鉄分が多い食品をこまめに摂ろう ・赤身の肉や魚、レバーに含まれるヘム鉄は吸収されやすい鉄分です。 ・ホウレン草や大豆類、卵などに含まれる非ヘム鉄は、ビタミンCと一緒に食べると鉄分の吸収がよくなります。 |
2.鉄の吸収を邪魔しない緑茶 ・コーヒー・紅茶は、食事中や食後には控えましょう。タンニンという成分が少ない飲み物(水・麦茶・ルイボス茶)などがおすすめです。 |
3.血液の材料はバランスよく ・タンパク質・葉酸・ビタミンB12も赤血球の材料として大事な栄養素です。 |



村崎 まみこさん
肉・魚・野菜などを1日3食にバランスよく、効果的に栄養を摂取することが大事です。
サプリメントを効果的に使う
鉄分を含んだサプリメントや市販薬には、他の栄養素も一緒になった商品もあり、お得感を感じますね。ただ、病院の薬に比べると鉄分の量や効果は控えめな傾向があるようです。
サプリメント・市販薬、病院での治療との比較
メリット | デメリット | こういう人におすすめ | |
サプリメント市販薬 | ・入手が簡単 ・手軽に補給 | ・成分量や効果は控えめ ・開始、中止が自己判断 ・摂り過ぎると健康被害のリスク | ・偏食や少食な人 ・月経時などに軽い貧血症状がある人 |
病院での薬物療法(処方薬) | ・原因に応じた治療 ・血液検査でチェックしながら行う安全な治療 | ・毎回の受診が面倒 | ・中等症以上の貧血 ・市販薬を数週間使用しても効果を実感できない人 |



村崎 まみこさん
サプリメントや市販薬は食事の補助と考え、使用しても貧血の症状が続く場合は病院に相談しましょう。
貧血かな?と思ったら内科の病院を受診しよう


「貧血は体が酸欠状態」と聞くと、しんどそうに感じませんか?
貧血を治療したあと、今まで以上にアクティブな毎日を過ごしている人が多くいらっしゃいます。



村崎 まみこさん
健康診断で貧血を指摘された人や毎日がなんとなくしんどい人は、とりあえず近くの内科に相談してみてはいかがでしょうか?
[2]日本内科学会雑誌第104巻第3号>貧血―診断と治療のアプローチ―
[3]厚生労働省>働く女性の心とからだの応援サイト>女性特有の健康課題>貧血・かくれ貧血
[5]日本内科学会雑誌第99巻第6号>特集「鉄代謝の臨床 鉄欠乏と鉄過剰:診断と治療の進歩>Ⅱ鉄欠乏>5鉄欠乏性貧血の治療指針
[6]「厚生労働省事業」東京大学産婦人科学講座監修 女性の健康推進室ヘルスケアラボ>貧血
[7]日本スポーツ振興センター>ハイパフォーマンススポーツセンター>FemaleSportナビ>からだ/スポーツ医学>生理・月経>月経異常・病気>量の異常(過多月経)について
[8]城田知子(1991):鉄欠乏性貧血女性における鉄含有食品長期摂取による改善効果と貧血予防の食品構成の提案,民俗衛生,1991年57巻1号 p. 2-18
[9]厚生労働省>健康日本21アクション支援システム~健康づくりサポートネット>生活習慣病などの情報(e-ヘルスネット)>健康用語辞典>鉄


医師ライター:村崎 まみこさん
国立大学医学部卒。大学病院で血液内科医師として従事したのち、現在はフリーランスとして健診センターや人間ドックで勤務しています。内科医や産業医としての経験や医学的知識を活かしながら、読者に「健康とは何か」を考えるきっかけとなるよう、健康や病気に対する正しい知識を発信することを心がけています。
コメント