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がんでも運動は可能?復職に向けた体力づくりのポイントを専門家が解説

「がんの治療で体力が落ちて、仕事に戻るのが大変そう……」
「まだまだ働き盛りなのに復職できなかったらどうしよう?」

あなたも、働き盛りでがんと診断されたとき、このような不安を抱えるのではないでしょうか。

筆者は病院で働く理学療法士として、がん患者さんのリハビリテーション(以下:リハビリ)を担当してきました。ほとんどの患者さんが、なるべく早い復職を望んでいます。しかし、なかなか思うように体力が戻らず、焦る気持ちから無理をして、かえって復職が遅れてしまう方が多くいました

本記事では、がん患者さん向けのリハビリや、復職に向けた体力づくりのポイントについて解説していきます。

理学療法士ライター

平山ゆいさん

その日の体調や体力に合わせて、ご自宅で簡単にできる運動も紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください

目次

がん治療で生じる体力低下や生活の変化   

日本人ががんになる確率について次のように言われています。

日本人が一生のうちにがんと診断される確率は(2020年データに基づく)男性62.1%(2人に1人)、女性48.9%(2人に1人)
引用:国立がん研究センター がん情報サービス 最新がん統計[1] 

また、2021年にがんと診断されたのは約99万人で、そのうちの4人に1人が働き盛り(20〜64歳)です。(出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)[2]をもとに算出

がん治療は、がんの種類や進行度に合わせて、手術や化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療をいくつか組み合わせるのが基本です。[3]しかし、多くの患者さんが、次のような抗がん剤の副作用に悩まされています

  • 体のだるさ[3]
  • 免疫力の低下[3]
  • 吐き気、嘔吐[4]
理学療法士ライター

平山ゆいさん

筆者がリハビリを担当したがん患者さんでは、食欲低下や貧血などの症状から、疲れやすいと話す方もいました。

副作用が続き、安静にする時間が増えていくと、短期間で体力が落ちます。体力が低下した状態で家事や育児、仕事をこなすのは大変です。体力面だけでなく「思うように動けなくなってしまった」と気持ちが落ち込む方も少なくありません

がんの方向けのリハビリについて

がん治療中でも体力を維持するには、リハビリや運動が必要です。とはいえ、「がん治療中に運動して本当に大丈夫?」と不安な気持ちになりますよね。

化学療法や放射線治療中のがん患者さんに対するリハビリの効果として、次のように言われています。

益(望ましい効果)として、運動耐容能、筋力、身体機能、倦怠感、身体活動性、ADL、末梢神経障害、QOL への改善効果が認められた。
引用:公益社団法人日本リハビリテーション医学会 がんのリハビリテーション診療ガイドライン第2版[5]

リハビリは、治療中だけ行うものではありません。治療前から治療に向けた体力づくりを開始し、治療後も日常生活や復職に向けて継続します

理学療法士ライター

平山ゆいさん

リハビリの専門家である理学療法士が、一人ひとりの体調や生活に合わせた運動を指導するので、安心して取り組んでください。

がん治療中でもできる!おすすめの運動

がん患者さんに運動を指導してきた理学療法士の筆者が、がん治療中でもできるストレッチや筋力トレーニングを紹介します。まずは、ご自身が運動できる状態か必ず主治医に確認してください。もし、体調がすぐれない場合は、無理をせずに運動をやめるか、軽めの運動にしましょう。

運動の強さは「会話しながらできる」「軽く汗ばむ」ぐらいが目安になります。

理学療法士ライター

平山ゆいさん

呼吸を止めないように、声に出して数を数えながら運動するのがおすすめです

簡単ストレッチ 

起床後や就寝前にじっくり体をほぐしましょう。

①肩甲骨(けんこうこつ)周りのストレッチ
肩甲骨周りの筋肉をほぐすと、深い呼吸ができ、疲れにくくなります。

1.椅子に座り図のように肩に手を置く。
2.前から後ろへ10回大きく回す。
3.後ろから前へも同様に回す。

理学療法士ライター

平山ゆいさん

肩だけではなく、肩甲骨を動かすように意識しましょう

②アキレス腱のストレッチ
アキレス腱がしなやかに動くと、楽に立て、歩きやすくなります。

1.壁に手をついて立ち、顔や身体は前方を向く。
2.片方の足を3足分後ろに引く。
3.かかとを地面から離さないように、ひざを伸ばす。反動をつけずに20秒キープ。
4.ゆっくり戻る。2と3の方法で、もう片方の足も行う。

理学療法士ライター

平山ゆいさん

右図のようにタオルを使えば、ベッドの上でもできます。体調がすぐれず、立つのが辛い方にもおすすめです。

筋力を維持するトレーニング 

下半身の筋肉を鍛えるトレーニングです。下半身には、立つ、歩く動作に重要な筋肉が多く、効率的な筋力アップが期待できます

無理なくできる運動を1セット10回からはじめ、余裕が出てきたら回数や種類を増やしましょう。

①ブリッジ
お尻周りの筋肉を鍛えられます。

1.仰向けになり、両ひざを立てる。
2.両足で踏ん張ってお尻を上げる。
3.2の姿勢で3秒ほどキープする。
4.ゆっくりお尻をおろす。

②立ち座りを繰り返す運動
太ももの筋肉を中心に鍛えられ、スクワットと同じような効果が見込めます。生活の中に取り入れやすい運動です。

1.足を肩幅に開いて座る。
2.内股にならないように、ゆっくりと立ち上がる。
3.ゆっくりと座る。

理学療法士ライター

平山ゆいさん

1〜3を1セットとしましょう

③かかと上げ
ふくらはぎの筋肉を鍛えられます。

1.壁や椅子に両手をついて立つ。
2.両方のかかとを地面から離すように真上にあげ、つま先立ちになる。
3.ゆっくりと元に戻る。

理学療法士ライター

平山ゆいさん

まっすぐ体を持ち上げるイメージで行いましょう

家事や買い物でエクササイズ 

家事や育児に追われ、運動する時間が取れない方もいるのではないでしょうか。家事も全身を動かす身体活動として捉えてみてください[6]

安静時を1としたとき、活動が何倍のエネルギーを消費するかを表す単位がMETs(メッツ)です。[6]たとえば、買い物(2.3METs)はストレッチ(2.3METs)に相当します。[7](表1参照)

運動METs生活活動
1.0安静
ストレッチ2.3買い物、洗濯ものを片付ける
2.5植物への水やり、リネンの交換、ごみ捨て
3.3掃除機をかける、台所での活動
散歩3.5階段を降りる
家庭での運動3.8掃き掃除
歩行:通勤や通学4.0洗濯物を干す、ゆっくり階段を上る
表1 生活活動と運動のMETs表

出典:改訂版「身体活動のメッツ(METs)表」(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)[7]をもとに作成

表をみると「家事も立派な運動になるんだな」と思いませんか?

理学療法士ライター

平山ゆいさん

毎日の家事や買い物もエクササイズとして活用し、体調に合わせて調整してみましょう。

がん治療中からできる復職に向けた準備

がん治療で休職中の方では、生活に慣れても、復職に対しては不安を感じているかもしれません。無理なく復職するには、自分の体調を理解したうえで、焦らず体力づくりに励む必要があります

復職する時期を検討しはじめたら、仕事がある日を想定したスケジュールで生活してみてください。

理学療法士ライター

平山ゆいさん

あわせて、以下のポイントも確認しておきましょう。[8]

  • 体調の変化や休憩するタイミングの傾向をつかむ
  • 治療前と同じように仕事ができそうかを考える
  • 体力的に復職が難しい場合は、仕事量や仕事内容、勤務時間、交通手段などを変更すれば復職可能か検討する

がんになってもできる運動を続けよう

がん治療は長い道のりです。治療が一段落しても、体力が戻り切らない中での生活がしばらく続きます。「どうして自分だけ……」と落ち込む時もあるでしょう。

しかし、自分にできる運動や家事をコツコツと続けて、体や心が少しずつ回復する変化を感じ取ってみてください

理学療法士ライター

平山ゆいさん

小さな日々の積み重ねが、復職への一歩になります。本記事が、復職するためのヒントになれば幸いです。

この記事の執筆者

理学療法士ライター:平山ゆいさん

理学療法士。大学卒業後から急性期の総合病院に勤務し、集中治療室や一般病棟、緩和ケアの幅広い領域に携わった。日本DMAT隊員として、災害医療分野の業務にも従事。体調を崩し休職した経験から、自身の健康を守れる働き方について考え始め、ライター講座を受講。難しい医療情報でも、身近に感じられるような執筆を心がけます。

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