MENU

ダイエット薬はリスクあり?効果や副作用について薬剤師が解説

近年の日本では美容意識が高まっており「ダイエット薬」と呼ばれる薬をクリニックで手に入れられるようになっています。


しかし、ダイエット薬と呼ばれている薬は、本来は糖尿病などの病気を治療するために開発されたものです。美容・ダイエットを目的とした場合、保険は適用されません。また、どの薬にもあてはまりますが、正しい知識がないまま誤った方法で飲んでしまうと、深刻な健康被害を引き起こす可能性もあります

薬剤師ライター

三村 まこさん

この記事では、薬剤師である筆者が、美容・ダイエットのためにクリニックで実際に処方されている薬の働きやリスク(副作用)と、ダイエット薬を使う前に確認すべきポイントについてわかりやすく解説します

目次

ダイエット薬としての糖尿病治療薬

糖尿病治療薬は、代表的なダイエット薬のひとつです。

糖尿病は、インスリンという血糖値を下げるホルモンの働きが不足することにより、血糖値が高い状態が続く病気です。[1]糖尿病治療薬は、悪くなってしまったインスリンの働きを改善したり、血液中の糖を体の外へ出したりして、糖尿病患者さんの血糖値を下げることを目的としています

薬剤師ライター

三村 まこさん

しかし、健康な人には、副作用である「体重減少」や「食欲減退」などを利用して自由診療で処方されることも増えてきました。

ここでは、体重減少を目的として処方される糖尿病治療薬の働きとリスク(副作用)について説明します。

GLP-1受容体作動薬の働きとリスク

GLP-1*受容体作動薬は、膵臓にあるGLP-1受容体に働きかけてインスリンの分泌を促したり、血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンの分泌を抑えたりすることで血糖値の上昇を防ぎます。[2]

また、脳に働きかけることで食欲を抑え、胃の運動を遅くして満腹感を持続させる作用もあり、食事量を減らすダイエットをしたい場合に処方されることがあります[2]

よくある副作用は吐き気、おう吐、便秘、下痢、腹痛などの消化器症状です。[4]

そして、重大な副作用としては急性膵炎や低血糖が報告されています[4]

薬剤師ライター

三村 まこさん

以下の症状があらわれた場合には、すみやかに医療機関を受診しましょう。

GLP-1受容体作動薬の重大な副作用具体的な症状
急性膵炎[5]急な胃の痛み、吐き気、おう吐
低血糖[6]冷や汗、吐き気、急な強い空腹感、寒気、動悸、手足のふるえ、目のちらつき、ふらつき、脱力感、頭痛
GLP-1受容体作動薬の副作用と具体的な症状

おもなGLP-1受容体作動薬には、週1回自分で注射するマンジャロやオゼンピック、空腹時に飲むリベルサスなどがあります

GLP-1*:グルカゴン様ペプチド-1の略称。消化管ホルモンの一種であり、インスリンの分泌を促す働きがある。[3]

SGLT2阻害薬の働きとリスク

SGLT2阻害薬は尿細管にあるSGLT2*に関わり、尿と一緒に糖を排出させ体重減少への効果が見込めます。[7]

注意したい副作用には、尿路感染症と脱水症状があります[8]

尿路感染症は、SGLT2阻害薬を飲むことで、糖の多い尿が膀胱や尿道にとどまってしまうことが原因です。

薬剤師ライター

三村 まこさん

細菌が糖をエサにして増殖し、炎症を起こすことで、膀胱炎などの尿路感染症となることがあります。

また、SGLT2阻害薬を飲むと、糖の排出のために尿自体の量も増加します。尿の量や回数が増えることで身体から水分が失われてしまうため、脱水症状が出やすいのです。

尿路感染症や脱水症状の予防策としては、水分をこまめに補給し、トイレを我慢しないことが大切です。

薬剤師ライター

三村 まこさん

また、尿路感染症を防ぐために「トイレの後は前から後ろへ拭く」「シャワー・入浴の習慣化」などの工夫をして、陰部を常に清潔にしておきましょう。

おもなSGLT2阻害薬には、ジャディアンスやフォシーガなどの飲み薬があります。

SGLT2*:ナトリウムグルコース共輸送体2の略称で、グルコース(ブドウ糖)を体内に取り込むタンパク質。[9]

ダイエット薬としての漢方薬

漢方薬もダイエット薬の選択肢として処方されることがあります。

ダイエットを目的に使用されるおもな漢方薬5種を以下の表にまとめました。[10][11][12][13][14]

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)大柴胡湯(だいさいことう)加味逍遙散(かみしょうようさん)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
おもな適応・効果・肥満症・むくみ・便秘・肥満症・浮腫・肥満症(肥ぼう症)・便秘・精神神経症状・便秘・冷え症・更年期障害更年期障害
適している体質・腹部に皮下脂肪が多い・体力が充実している・比較的体力が低下し色白で筋肉軟らかく水ぶとりの体質・疲れやすい・汗が多い・比較的体力がある人・体格・体力ともに充実した人・体質虚弱な女性で疲れやすい・筋肉が一体・軟弱で疲労しやすい・腰脚の冷えやすい
注意したい飲み合わせ相互作用マオウを含む漢方薬(葛根湯、小青竜湯、麻黄湯など)との服用で頻脈や動悸などの交感神経興奮症状・カンゾウを含む漢方薬(芍薬甘草湯、補中益気湯、抑肝散など)との服用で偽アルドステロン症・ミオパチーとくになし・カンゾウを含む漢方薬(芍薬甘草湯、補中益気湯、抑肝散など)との服用で偽アルドステロン症・ミオパチーとくになし
ダイエットに使用される主な漢方薬

防風通聖散、防己黄耆湯、大柴胡湯は肥満症の適応があり、体重増加の原因となる便秘やむくみへの効果も期待できます。

加味逍遙散、当帰芍薬散は婦人科でよく処方される漢方薬です。便秘やむくみ、冷え、ストレスをやわらげ、ダイエットをサポートできるでしょう。

薬剤師ライター

三村 まこさん

そして、漢方薬に共通して注意したい副作用には、次の3つがあります。[10]

  • 間質性肺炎:自覚症状として、咳や息苦しさがあらわれる
  • 肝機能障害:自覚症状として、肌や白目が黄色くなる
  • 腸間膜静脈硬化症:腸の調子が何度も悪くなったり、便に血が混じる

上記の副作用はめったに出ませんが、使用して体調が悪くなった場合はすぐに医師や薬剤師に相談しましょう

ダイエット薬を使う前の確認ポイント

今回ご紹介した薬は、本来は体重減少を目的にした薬ではありません。上記を読んでいただき、ダイエット薬にはリスクがあることもわかりました。痩せたいからと言って、すぐ薬に頼ることは良くないでしょう。ダイエット薬を使う前に、考えるべきことがあると思いませんか?

薬剤師ライター

三村 まこさん

そこで、「ダイエット薬を使ってみようかな?」と思ったら考えてほしいポイントをまとめました。

まず生活習慣を改善する

ダイエットで最も大切なのは、正しい生活習慣に取り組むことです。

食べ過ぎや運動不足などにより摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ると、体重が増えてしまいます。[15]

薬剤師ライター

三村 まこさん

まずは自分の食事・運動習慣を見直し、直せるところを改善しましょう。

ダイエット薬のリスクを理解する

ダイエット薬を使用することで、楽に体重を減らせると思うかもしれません。

しかし、体重減少のような本来の目的とは異なる薬の使用に関しては、安全性と有効性は確認されていないのです。ダイエット薬の不適切な使用により健康被害や依存・乱用につながる恐れもあるでしょう。

通常、薬の副作用により重篤な健康被害が生じた場合には「医薬品副作用被害救済制度」によって給付を受けられることがあります。ですが、この救済制度が受けられるのは、薬を適正に使用した場合に限られます。美容・ダイエット目的の使用は、適正な使用には該当せず救済制度の対象にはなりません[4]

薬剤師ライター

三村 まこさん

ダイエット薬の使用は、健康面だけではなく、金銭面でもリスクがかかってしまう可能性もあるのです。

信頼できる医療機関を選択する

自分なりに生活習慣の改善に取り組んでもなかなか体重が減らない場合は、医療機関の受診を検討してみても良いでしょう。

薬剤師ライター

三村 まこさん

受診する前にしっかりとリサーチして、ご自身で信頼できると思う医療機関を選ぶようにしましょう。

信頼できる医療機関のチェックポイント例

  • 医師による持病や飲み合わせの確認・薬の説明がある
  • 定期的な診察、検査がある
  • 体調異変時などに、すぐに問い合わせできる体制が整っている

医師の診察や説明がないと自己判断で誤った使用をしてしまいます。また、定期的な検査がなく漠然と薬を使い続けると、気づかないまま身体の状態が悪化し、体調を崩す危険もあるでしょう

薬剤師ライター

三村 まこさん

体調に異変があらわれたときは、すぐに医師や薬剤師に相談する体制が整っていれば、より安心です。

ダイエット薬の使用はリスクも一緒に考えよう

薬は、病気を治したり予防したりすることを目的として使用します。使用することで病気が治り元気になれますが、同時に副作用というリスクもあるのです。

薬剤師ライター

三村 まこさん

本記事を読むことで、ダイエット薬は自分に取り入れるべきであるのかを考えるきっかけになれば幸いです。

【参照】

[1]厚生労働省>報道・広報>広報誌「厚生労働」 案内>みんなで知ろう!からだのこと

[2]矢部大介.GLP-1受容体作動薬の分類と作用機序、使用上の注意点,日本糖尿病学会誌,2017年,第60巻,第9号,p.562

[3]東京大学 大学院総合文化研究科 生命環境科学系 教養学部 統合自然科学科 坪井研究室>トピックス>脳内のGLP-1が食欲を調節

[4]厚生労働省>政策について>分野別の政策一覧>健康・医療>医薬品・医療機器>医薬品等安全性関連情報>医薬品・医療機器等安全性情報(令和5年度)

[5]PMDA独立行政法人医薬品医療機器総合機構>安全対策業務>情報提供業務>医薬品>副作用情報>重篤副作用疾患別対応マニュアル(医療関係者向け)>急性膵炎(薬剤性膵炎)

[6]PMDA独立行政法人医薬品医療機器総合機構>安全対策業務>情報提供業務>医薬品>副作用情報>重篤副作用疾患別対応マニュアル(医療関係者向け)>低血糖

[7]金井 好克,研究会 第56回 河口湖心臓討論会 「HFpEFの治療ターゲットを探る」 SGLT2 阻害薬の多面的な作用と作用メカニズム,心臓,2024,56巻2号,p.162

[8]一般社団法人 日本腎臓学会>医療従事者のみなさまへ>ニュース&トピックス>会員向け>「CKD 治療における SGLT2 阻害薬の適正使⽤に関する recommendation」公開のお知らせ

[9]金沢大学>研究>糖尿病治療薬SGLT2iが肝臓での糖産生に与える影響を解明

[10]TSUMURA MEDICAL SITE>製品情報>ツムラ医療用製剤>ツムラ防風通聖散

[11]TSUMURA MEDICAL SITE>製品情報>ツムラ医療用製剤>ツムラ防己黄耆湯

[12]TSUMURA MEDICAL SITE>製品情報>ツムラ医療用製剤>ツムラ大柴胡湯

[13]TSUMURA MEDICAL SITE>製品情報>ツムラ医療用製剤>ツムラ加味逍遙散

[14]TSUMURA MEDICAL SITE>製品情報>ツムラ医療用製剤>ツムラ当帰芍薬散

[15]厚生労働省>政策について>審議会・研究会等>健康・生活衛生局が実施する検討会等>「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書>各論1エネルギー・栄養素>エネルギーp.51

この記事の執筆者

薬剤師ライター:三村 まこ

北海道科学大学卒。大手ショッピングセンター内の調剤薬局で勤務経験あり。衣食住の方面から患者さま一人ひとりに合わせた健康相談を行ってきた。現在は調剤薬局で薬剤師として働きながらライター活動を行っている。趣味はテニス、グルメ、旅行など。読者目線に立ち、誰が読んでもわかりやすく正確な情報を執筆します。

X:https://x.com/mimuuu2222?s=21&t=L3N4zoPBTUHWtYhcKJ3Zvg

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次