近年、SNSは急速に普及し、多くの人にとって欠かせない存在となっています。連絡手段としてだけでなく、自ら情報を発信する場として利用している人も少なくありません。しかし、その情報は不特定多数の人の目に触れ、思わぬ形で拡散してしまう危険性があります。
医療ライター福乃まゆさん
実際に、医療従事者によるSNS上のトラブルがニュースで取り上げられることもあります。
「自分は大丈夫」と思っていても、知らないうちにリスクを抱えているかもしれません。今一度、自分のSNSの使い方や認識を見直してみましょう。
本記事では、看護師としてSNSを利用する際に注意すべきポイントをお伝えします。SNSを安全かつ安心して活用できるようになりましょう。
看護師が守るべきSNSルール


看護師は業務上、さまざまな個人情報に触れる機会があります。これらの情報は極めて個人的なものであり、患者の尊厳とプライバシーを守るため、ルールに沿って扱わなければなりません。



福乃まゆさん
ここでは、看護師が押さえておきたい守秘義務や個人情報保護法について、またSNSを使用する際に気を付けるべきポイントをお伝えします。
看護師の守秘義務と個人情報保護法
保健師助産師看護師法第42条の2において、看護師の守秘義務が課せられており、業務上知り得た情報を理由なく人に漏らしてはいけません。[1]
また、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)でも、「個人情報は、個人の人格尊重の理念の下に慎重に取り扱われるべきものである。」とされています。[2]
特に医療従事者に対しては、「個人情報を取り扱うに当たって、その利用目的をできる限り特定し、本人の同意を得ないで、利用目的の範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。」と定められています。[2]



福乃まゆさん
このように、個人情報の取り扱いは法律で定められており、違反したら罰則が科せられるものであることを認識しなければなりません。
違反した場合の罰則は、6か月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処すると保健師助産師看護師法に規定されています。[1]
個人情報とは何か?
個人情報とは、特定の個人を識別できるものです。具体的に医療の現場では、名前や住所、顔写真、診療録、検査所見などがあたります。[3]
また、個人識別符号や要配慮個人情報も個人情報として扱われます。
個人識別符号は、単体の情報で特定の個人を識別できるもので、保険者番号やDNAの塩基の配列などです。要配慮個人情報は、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴など、特に配慮を要するものとされています。[4]
注意しなければならないのは、個人が特定できないように、情報の一部を削除するなど加工をした場合です。
このように処理したとしても、他の情報を照らし合わせることで個人が識別できる場合、それらの情報はまとめて個人情報として扱う必要があります。[4]



福乃まゆさん
何が個人情報にあたるかということは重要です。これらを理解し、慎重に情報を扱いましょう。
看護師の倫理
SNS上で発信するときは、看護師として求められる振る舞いを倫理の側面からも意識する必要があります。
保健師助産師看護師法第14条で、看護師としての品位を損なう行為があった場合、懲戒処分や業務停止、免許の取り消しなどの処分をされる可能性を示しています。[1]
看護師としての行動は、個人のものだけではなく、看護職全体に対して向けられているといえるでしょう。品位を損なうような行為や発言は、看護職に対する社会的信用の損失につながると意識する必要があります。



福乃まゆさん
看護師としてSNSへ投稿する際は、個人情報の漏洩になっていないか、誹謗中傷になっていないかなど、より注意深く意識しましょう。
看護師のSNSトラブル事例


過去に実際にあったトラブル事例から、どのような状況でトラブルとなっているのか紹介します。
- 講義で示された患者の摘出臓器を写真撮影して旧Twitter(現X)にアップロードした。[5]
- ブログに「(点滴を)わざと失敗した」と虚偽、「死んでほしい」と中傷する書き込みをした。[5]
- SNSに電子カルテ画面の写真を投稿、写真に患者の個人情報が写っていた。[6]
- 電子カルテの画面を撮影し、知人との個人間のやりとりにおいてLINEで送信、画像には診療科名、患者氏名が含まれていたが、患者指名は黒塗りにしていた。[7]
トラブルの分類としては、誹謗中傷、個人情報の漏洩に分けられます。
どれもそれほど深く考えずに、軽い気持ちでやったものかもしれません。しかし、「個人情報になると思わなかった」「友達に言いたかっただけ」という思いだったとしても、SNSに投稿された情報は、自分の意図とは違う方向へいってしまうことがあります。それがSNSの特徴だと理解しなければなりません。
これらの事例は報道され多くの人に知れ渡るケースもあります。



福乃まゆさん
行った本人だけでなく、所属する病院や看護師全体に対する世間の信頼度を損なうことにつながる可能性があります。
看護師がSNS利用で注意すること


SNSは大変便利で私たちの生活を豊かにしてくれるものですが、同時にリスクもあることを知っておかなければなりません。SNSの性質や特徴から、注意しなければならないことを確認しましょう。
- 投稿した写真の背景などに個人情報が入り込んでいたり、また写真にデータが記録されていたりすることからの個人情報が漏洩することがある
- 投稿した内容により相手を傷つけてしまい誹謗中傷となる可能性がある(場合によっては侮辱罪や名誉毀損になる)
- 投稿はすぐに拡散されていたり、スクリーンショットを取られていたりして、一度投稿したら完全に削除することは困難である[8]
これらは、SNS全般に対して言えることです。
また、LINEは相手を特定してやり取りをするチャットをおもな機能としているので、他のSNS(FacebookやInstagram、X、YouTube、ブログなど不特定多数の相手に向けて発信する、投稿の機能を主とするもの)よりリスクが低く感じるかもしれません。[9]
しかし、相手も自分と同じITリテラシーを持っているとは限りません。スクリーンショットで他の人へ拡散していくことも可能です。個人的なやり取りでも全体へ拡散するリスクを考えて投稿しましょう。
さらに、匿名で投稿しているから大丈夫と思っている人もいるかもしれませんが、IPアドレスなどから技術的に発信者を特定することは可能です。また、画像の詳細から特定できる場合もあります。



福乃まゆさん
対面や実名で言えないような表現はするべきではありません。[10]
生成AIと個人情報の注意点


生成AIはこれから活用が期待されるツールですが、これも個人情報に注意しなければなりません。生成AIはまず、こちらが質問や指示を投げかけます。この中に個人情報が入っていると、学習データとして利用され、情報の漏洩につながるリスクが指摘されています。
もし使用する場合は、同意を得ているか、利用目的に沿っているかの確認が必要です。



福乃まゆさん
また、入力した内容を学習に使わないようにオプトアウト設定しておくことが望ましいとされています。[11]
ルールを理解して安全にSNSを使おう


SNSを使用することはリスクを伴いますが、正しく使用できれば情報の拡散力は非常に強く、多くの人に知ってもらうことが可能です。



福乃まゆさん
病院や部署単位でSNSを運営したり、看護師個人として専門的な知識を一般の多くの方に広めたりすることもできます。
リスクを正しく理解し、ITリテラシーを身につけ、安全にSNSを使いましょう。
[1]e-GOV法令検索>保健師助産師看護師法>第四十二条の二,第十四条
[2]e-GOV法令検索>個人情報保護に関する法律>第三条,第十七条
[3]日本看護協会>個人に関する情報と倫理>医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンスp11
[4]個人情報保護委員会>個人情報保護法等>「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に関するQ&A(事例集)
[5]諸井 陽子, 小林 元, 菅原 亜紀子, 他.医療系学生・医療専門職が起こしたインターネット上のモラルハザード事例,医学教育.2016年47巻3号,p186
[6]名古屋大学医学部付属病院>病院からのお知らせ>学生の不適切なSNS投稿及び個人情報の漏えいに関するお詫び
[7]長野県立こども病院>更新・お知らせ>職員による情報漏えい事故が発生しました
[8]法務省>大人への道しるべ>第6話解説 SNSは便利で怖い
[10]政府広報オンライン>社会・制度>あなたは大丈夫?SNSでの誹謗中傷 加害者にならないための心がけと被害に遭ったときの対処法とは?


医療ライター:福乃まゆさん
看護師歴18年。整形外科・HCU・救急外来など急性期医療を中心に経験。現在は派遣看護師として、クリニックなどで働きながら医療ライターに挑戦中。これまでの経験を生かすことに加え、丁寧なリサーチを行い、わかりやすい記事になるよう心がけています。









コメント