日本は現在すでに超高齢社会へ突入しており、医療業界にも大きな影響をもたらす社会問題となっています。[1]
薬剤師への影響も大きく、超高齢社会において必要な役割や能力が変わります。たとえば、調剤中心の対物業務から対人業務中心への業務移行、在宅医療や地域包括ケアシステムへの参加などです。
ほかにも、病気の予防や早期発見につながるセルフメディケーションの推進、がん・感染症・小児といった様々な専門性の獲得など、いくつもの変化が考えられます。
このように期待される役割が変わってくると、「今の自分は、このままで薬剤師としてやっていけるのだろうか?」と不安が膨らみます。しかし、これは新しいチャンスが増えるとも言えるでしょう。

タカギショウコさん
今回は、薬剤師が求められる役割や身につけるべき能力と、薬局薬剤師の可能性についてお伝えします。
薬剤師に期待される役割


これまで薬剤師は調剤や医薬品の供給など、病気にならない環境づくりや病気になったときに活躍していました。しかし、超高齢化社会に伴って以下の役割も期待されるようになっています。
「誕生から終末期に至る、ライフステージ全てを通じた薬剤師による健康サポート、服用薬の一元的・継続的・全人的な管理・指導」[2]
では、より「身近で」「頼りになる」と感じてもらうために、私達薬剤師はどのような役割が求められるのでしょうか?
コミュニケーションスキル
処方箋受付時や調剤後のフォローアップ時に体質や生活習慣を把握すると、より高い効果が期待でき、副作用のリスクを抑えられます。[3]
また、抱えている悩みを打ち明けてもらうことで、治療や健康維持に積極的に取り組む後押しとなるでしょう。
危機察知能力と積極性
薬には必ず副作用が存在します。とくに患者さんが高齢者・小児・妊婦などの場合は細心の注意が必要です。生体機能等も含めて細かく確認し、できる限りのリスク回避も重要な仕事です。[3]
また、処方元となる医療機関や地域の他薬局との連携がより一層必要になってきます。



タカギショウコさん
薬局外へ積極的にアクションを起こすことが、患者さんや地域の方々の健康な生活の確保につながるでしょう。
薬剤師としての専門性
医療の進歩に伴い、薬物医療は複雑になり、医薬品数も増加しています。そのため、医薬品を安全に適切に取り扱うためには幅広い知識が不可欠となります。
また、医薬品の取り扱い以外にも以下のような取り組みが注目されています。[3]
- フレイル*対策
- 自殺対策
- ドーピング対策
- 薬物乱用防止
- 医薬品適正使用教育の支援
- 女性の健康づくり支援
- 妊産婦へのサポート
超高齢社会で薬剤師がやるべき事


超高齢社会では「医療費の増大」や「医療従事者の人手不足」、「在宅医療の需要増加」も問題となります。



タカギショウコさん
対策として、薬局が患者となりうる地域住民の健康寿命を延ばすこと、薬剤師が在宅医療や介護などさまざまな場に関わる事が求められています。
これからも超高齢社会が続いていく中で、薬剤師はどのような取り組みができるでしょうか?
健康寿命を延ばす
健康寿命とは、ある健康状態で生活することが期待される平均期間を表す指標です。 [4]
薬局が備えている「健康サポート機能」は、薬局同士が連携し、地域住民による主体的な健康の維持・増進を積極的に支援するものです。
日頃から地域の方々と関わることで健康寿命の延伸や早期受診にもつながるため、全国の薬局が「健康サポート機能」を持つことが望まれています。[3]



タカギショウコさん
実務経験が必要となりますが、薬剤師には「健康サポート研修」もあります。
処方箋受付以外でも働きかける機会を積極的に持ちましょう。
地域の実情に応じる在宅医療への参加
在宅医療ではさまざまな病態の患者さんへの対応や、ターミナルケアへの参画等の観点から薬剤師の資質向上が求められています。
麻薬や無菌製剤の調剤、小児在宅、24時間対応などに備え、在宅医療に必要な医薬品等を提供しなくてはなりません。



タカギショウコさん
ただしあらゆる機能がすべての薬局に必要なのではなく、それぞれの地域で何が必要なのかは考える必要があります。[5]
薬局が行う超高齢社会への対策


より人々の生活に近くにいるのは、調剤薬局の薬剤師ではないでしょうか?調剤薬局は年々数が増えています。[6]
そして、薬局には医療、介護、予防など地域の様々なサービスを提供する役割が可能と考えられています。
役割を果たすために薬局は何をすればよいのでしょうか。薬局薬剤師に求められる対策について解説します。
かかりつけ薬剤師
かかりつけ薬剤師とは、一人ひとりの服薬状況を把握し、日常的な健康相談まで担う薬剤師です。かかりつけ医と同様に、すでにかかりつけ薬剤師がいる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
超高齢社会において慢性疾患に対する薬物療法が増え、残薬の解消が求められます。また、市販薬やサプリメントの併用や多くの薬を飲んでいる場合は、組み合わせが悪く健康被害につながる可能性も懸念されます。



タカギショウコさん
解決するには患者さんの状況を把握し、医師へ正確に伝える「つなぐ」役割が重要です。[7]
健康サポート薬局
健康サポート薬局とは、「かかりつけ薬剤師・薬局」の機能に加えて以下のような役割を担う薬局です。
- 医薬品や健康食品に関する相談
- 適切な医療機関への紹介
- 地域の薬局への情報発信や取り組み支援
薬以外にもさまざまな健康に関する相談ができる場であり、人々の健康増進をサポートします。



タカギショウコさん
健康フェアや子供への1日薬剤師体験など、処方箋を介さない活動が日常的に行われるといいですね。[8]
セルフメディケーションの手助け
セルフメディケーションとは、「日ごろから健康づくりに取り組み、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」です。
セルフメディケーションには、セルフケアの推進とOTC薬の適正使用・相談体制が必要です。セルフケアとは、「健康に関する関心・正しい理解、予防・健康づくり」を指します。
薬剤師は健康に関する情報発信と、適切な受診勧奨と医師への情報共有ができます。



タカギショウコさん
情報社会において、根拠のある情報を必要な人へ届けることは難しいことですが、薬剤師に求められている役割の一つでしょう。
薬剤師がPHR*(Personal Health Record)の管理に関わることも、今後はあるかもしれません。[9]
まわりから求められる薬剤師になろう


今自分が得意なことと、これから必要だと感じたことがはっきりしましたか?きっと人それぞれ、地域や職場によっても異なるでしょう。
いま現在薬剤師としての自信があまりなくても、まわりで病気や健康のことで悩み、困っている方々がいないか目を向けてみましょう。薬剤師としての専門性が活きる役割や可能性が、そこからきっと見えてくるはずです。
引用
[2]厚生労働省>かかりつけ薬剤師・薬局に求められる機能とあるべき姿.p23
[4]厚生労働省>e-ヘルスネット>健康寿命>健康寿命の基礎知識>健康寿命の定義と算出方法
参考
[1]厚生労働省>採用特設サイトトップ>政策を知る>世界最先端の超高齢化社会を支える(老健局/年金局)
[3]厚生労働省>かかりつけ薬剤師・薬局に求められる機能とあるべき姿.p16.p24.p25.p27.p29.p31~35.p38
[5]厚生労働省>在宅医療分野の薬剤師領域における役割・ 取組と今後について.p3~5
[6]厚生労働省>統計情報・白書>白書、年次報告書>令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保->本文掲載図表(一覧/バックデータ)>図表1-2-28薬局薬剤師数と薬局数の推移
[7]厚生労働省>報道・広報>広報・出版>広報誌「厚生労働省」>身近な健康の相談役「かかりつけ薬剤師・薬局」を持ちましょう


薬剤師ライター:タカギ ショウコ さん
薬剤師免許を取得し、大手チェーン調剤薬局にて総合病院門前薬局で5年間勤務し、管理薬剤師も経験しました。研修認定薬剤師、スポーツファーマシスト、健康サポート研修薬剤師を取得しています。子育てとの両立のため、調剤併設型ドラッグストアへ転職し、現在も勤務中。”わかりやすく”、”根拠に基づいた情報”をお伝えできるよう、心がけています。
コメント