「出産前はなかったのに、産後くしゃみをするだけで尿がもれてしまった……」「30代での尿もれは恥ずかしくて、誰にも相談できない」
あなたは産後に、このような経験はありませんでしたか?筆者も待望のわが子を出産して慣れない育児に追われる中、産前と違う自分の身体に戸惑いを覚えていました。
とくに排尿・排泄に関わる部分は、なかなか人には相談しづらいですよね。
朝倉りんさん
本記事では、現役の理学療法士である筆者が、産後の尿もれに効果的な骨盤底筋トレーニングの方法をご紹介します。
ご自宅でも簡単にできる3つのトレーニングを厳選しましたので、ぜひご覧下さい。
産後の尿もれが起きるのはなぜ?
妊娠中や産後に咳やくしゃみをして尿もれを経験した方もいるかと思います。そもそもなぜ妊娠・出産後に尿もれが起きてしまうのでしょうか。
妊娠中や産後の尿もれの原因として、妊娠・出産で骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)に負担がかかったことによる、筋肉のゆるみや損傷などが考えられます。
骨盤底筋群とは骨盤の底面についているたくさんの筋肉が集まったものの総称です。私たちの骨盤内にある子宮や膀胱、直腸などの臓器を支えているのが骨盤底筋群です。[1]
また、骨盤底筋群には排尿に関わる筋肉があり、日常生活を送るうえで尿もれが起きないように抑える役割があります。
妊娠中は赤ちゃんと羊水を合わせて5kg以上の重さが骨盤底筋群にかかります。また、経膣分娩(けいちつぶんべん)では赤ちゃんが体外に出てくるのに合わせて、骨盤底筋群が引き伸ばされたり損傷したりと、負担がかかります。[1]
妊娠・出産による骨盤底筋群のゆるみや損傷が要因となり、咳やくしゃみの時にお腹に力が加わると尿もれが起きやすくなるのです。[1]
朝倉りんさん
出産を経験した方ならば誰にでも尿もれは起こり得ますので、心配しすぎず対策していきましょう。
骨盤底筋群の5つの機能とトレーニングのすすめ
骨盤底筋群のおもな役割は、膀胱や子宮、直腸などを骨盤の底から支えることです。その他にも骨盤底筋群にはさまざまな機能がありますのでご紹介します。
朝倉りんさん
また、骨盤底筋群のトレーニングの重要性についてもお伝えしていきます。
骨盤底筋群の5つの機能
以下が骨盤底筋群のおもな機能について簡単にまとめたものです。[1][2]
- 腸や子宮、膀胱が下に落ちていかないように支える
- 排尿時や排便時に筋肉を締めたりゆるめたりする
- 尿もれや便もれが起きないようにする
- 姿勢や呼吸を安定させる
- お腹の力(腹圧)をコントロールする
妊娠や出産を経験した方の中には、上記の5つの機能に問題が生じたと感じる方もいるのではないでしょうか。
朝倉りんさん
骨盤底筋群は体幹を支える腹筋群とともに姿勢を安定させているため、ゆるみや衰えにより身体のゆがみや腰痛などの症状につながる恐れがあります。
さらに腹圧をコントロールする際も骨盤底筋群と腹筋群はともに働き、分娩時の子宮収縮をサポートする役割もあります。[1]
以上のことから、骨盤底筋群は女性の妊娠・出産において、重要な役割を担っていることがわかりますね。
骨盤底筋トレーニングの効果
骨盤底筋群は妊娠・出産でゆるんでしまっても、トレーニングによって鍛えられます。
朝倉りんさん
妊娠・出産で起きる尿もれは、くしゃみや咳でお腹に力が入ることで尿がもれてしまう「腹圧性尿失禁(ふくあつせいにょうしっきん)」という症状の方が多い傾向です。[1]
腹圧性尿失禁の原因の多くは骨盤底筋群のゆるみによるものとされ、骨盤底筋群トレーニングにより改善が期待できるとされています。[3][4]
骨盤底筋群を鍛えるトレーニング3選
骨盤底筋群を鍛えるトレーニングを3つご紹介します。きついものではなく、仰向けやイスに座った状態でもできるため、ご自宅でも簡単にトレーニングができます。
朝倉りんさん
とくに産後の尿もれが気になる方にはおすすめですので、参考になさってください。
トレーニングの前にチェック
イスに座った状態で両手をお尻の下に差し込むと、お尻の2カ所に出っ張っている骨に触れられます。これが坐骨です。坐骨の位置を知ることで、自分の骨盤底筋を意識しやすくなります。
朝倉りんさん
骨盤底筋群を鍛えるトレーニングをする前に、骨盤底筋群が多く付着する坐骨(ざこつ)の位置をご自分で触って確かめてみましょう。
次に骨盤底筋に力を入れる時のポイントを解説します。以下で紹介しているイメージを意識して骨盤底筋に力を入れてみましょう。
- 尿を止めるイメージ
- 膣を引き上げるイメージ
- 肛門をしめて引き上げるイメージ
上記のイメージでは骨盤底筋群に力が入っているのかよくわからないという方は、イスに座った状態で陰部のあたりにロール状にしたタオルを入れてみてください。そのタオルを引き上げるように陰部に力を入れてみましょう。[1]
1.仰向けでの骨盤底筋トレーニング[1][5]
仰向けでの骨盤底筋トレーニングは骨盤底筋群にかかる負荷が低いため、骨盤底筋トレーニングがはじめての方や、産褥期 (さんじょくき:産後6〜8週間を指し、分娩後に母体が妊娠前の身体の状態に回復する期間のこと)の方におすすめの体勢です。[1]
手順を以下にご紹介します。
- 仰向けになり、両脚を立てて肩幅に開く。
- ゆっくりと呼吸し、息を吐く時に骨盤底筋群に力を入れ、息を吐きながら力をゆるめる。
- 2の動きに慣れてきたら骨盤底筋に力を入れたまま10秒キープしたあと、ゆっくりとゆるめる。
- 3を10回行う。
- 3〜4の動きを2〜3セットほど行う。
仰向けの他に、肘をつかない四つん這いの姿勢や、肘をついてお尻を高く持ち上げた状態での四つん這い姿勢での骨盤底筋トレーニングもはじめての方にはおすすめの体勢となります。
朝倉りんさん
骨盤底筋群に力を入れる際、10秒キープが難しい方はご自分が力を保てる秒数から始めてみてください。そして、徐々に力を入れる秒数を伸ばすようにしてみましょう。
2.イスに座った状態での骨盤底筋トレーニング[1][5]
つづいて、イスに座って骨盤底筋に力を入れるトレーニングをご紹介します。
- 骨盤を立てるように背筋を伸ばして座る。
- ゆっくりと呼吸し、息を吐く時に骨盤底筋群に力を入れ、息を吐きながら力をゆるめていく。
- 2の動きに慣れてきたら骨盤底筋に力を入れたまま10秒キープしたあと、ゆっくりとゆるめる。
- 3を10回行う。
- 3〜4の動きを2〜3セットほど行う。
骨盤底筋群に力を入れる際、10秒キープが難しい方はご自分が力を保てる秒数から始めてみてください。お仕事でデスクに座っている時や、ご自宅でソファに座っている時などに気軽に行えます。
朝倉りんさん
ポイントは背もたれから背中を離して、骨盤を立てて背筋を伸ばしてトレーニングすることです。骨盤の位置をまっすぐにすると骨盤底筋群が上手く機能し、より効果的なトレーニングになりますよ。
3.ハーフブリッジ[5]
ハーフブリッジはお尻の筋肉である大殿筋(だいでんきん)を鍛えるトレーニングです。大殿筋を鍛えることで骨盤底筋群にもいい影響を与えるとされています。[1]
朝倉りんさん
また、骨盤底筋群に力を入れるのが難しい方にもおすすめのトレーニングなので、ぜひ挑戦してみてください。[1]
- 仰向けになり、両脚を立てて肩幅に開く。
- ゆっくりと呼吸し、息を吐く時に骨盤底筋群に力を入れてお尻を持ち上げていく。
- 2の状態で息を吐きながら、さらに骨盤底筋に力を入れ、息を吸ってゆるめる。
- 3を3回ほど行ったあと、ゆっくりと背中をつけていく。
以上がおすすめの骨盤底筋群を鍛えるトレーニングです。妊娠中の方や産後間もない方は、トレーニングする前にかかりつけ医や主治医に相談しましょう。
産後の尿もれには骨盤底筋トレーニングがおすすめ
産後の尿もれは妊産婦ならば誰にでも起こり得る現象です。お一人で悩まず、まずはかかりつけ医や主治医に相談してみましょう。
朝倉りんさん
今回ご紹介した骨盤底筋群を鍛えるトレーニングが、あなたの心と身体の健康に少しでもつながれば幸いです。
[1]2019年出版、株式会社 ヒューマン・プレス、田舎中 真由美、まゆみんが教える!骨盤底機能、p9-10、29-46、49-50、66-67、121-122、167-168、169-171)
[2]田舎中 真由美、青木 芳隆:骨盤トレーニングのための基礎と実践,体力科学,第71巻,3号,255-261,2022 、p256-258)
[3]女性下部尿路症状診療ガイドライン[2版]p128-131
[4]Incontinence 6th Edition (2017) Chapter 12: Adult Conservative Management(日本語訳)p21-p25
[5]理学療法士ハンドブック シリーズ10 女性のライフステージ p12
理学療法士ライター:朝倉 りんさん
養成校を卒業後、地元のリハビリ中核病院に就職。12年のキャリアの中で脳卒中や運動器、神経難病、がんなど多くの症例を経験し、介護保険領域にも携わる。育児休業を機に柔軟な働き方を模索中にピラティス資格の取得やWebライターとしての活動を始める。女性の健康やリハビリ職の多様な働き方を発信できるライターになるべく「医療ライターのはじめかた」を受講。